学芸だより

大宰府学講演会

 11月3日、文化の日に大宰府学講演会を開催しました。当館では、開館当初、各方面から大宰府研究の専門家を招き、毎月「大宰府学講座」を開催していました。市民の強い要望を受け、今回10年ぶりに復活。講師は、福岡女学院大学大学院人文科学研究科教授・文学博士の東茂美先生です。「<貧しさ>に寄り添うこころ―憶良・道真と大宰府の古代文学―」と題し、大宰府にゆかりの深い山上憶良と菅原道真について、二人の和歌と漢詩に見られる共通点をご講話いただきました。
 憶良も道真も、厳しい環境に身を置きながら優れた文学を生み出しています。憶良は有名な「貧窮問答歌」のなかで、自身を投影するかたちで、塩を肴に糟湯酒をすすり遠方にいる父母・妻子へ心をよせる侘びしげな男の姿を描いています。「蜘蛛の巣が張っているかまど」などと表現する箇所には、笑いを誘う誇張が見られます。
 憶良が<貧しさ>のなかで家族を見つめたように、道真もまた、家族へと思いを馳せています。「讀家書(家書を読む)」の漢詩では、離れて暮らす妻子を気遣う様子が描かれ、そこからは同時に、道真の優しさをも感じることができます。また「秋夜」には、亡くなった我が子への限りない愛情が込められています。それまで、「小さな大人」と見なされていた子どもを、ありのままの子どもの姿として文学に登場させたのは、文学史上、憶良に続いて道真が二人目だったということです。
 講演会は、私たちにとって馴染みのある例えが豊富に折り込まれ、たびたび笑い声があがる和やかな雰囲気に包まれていました。参加者は言葉の一つ一つに頷きながら感じ入り、メモを取り、投げかけに積極的に声を返す熱心な姿を見せていました。「大宰府学は面白い。大宰府は文学的な発見のあった場所」と締めくくられた講師の言葉に、大きな拍手がわきおこり、講演会が終了しました。



▲当日の様子