学芸だより

農具のいろいろ 1 - 持立犂(もったてすき)-

 農具で「すき」といえば、真っ先に思い浮かぶ漢字は何でしょうか。「鋤」の字を想像される方も多いと思いますが、この他にも犂(=犁)の字があります。
いずれも土を耕すものですが、犂(=犁)の字を使う場合は、牛や馬にすきを引かせることを指します。犂の字は牛が下で支えている形になっていますが、上半分の字は「からすき」という意味があります。
犂の名称は各地で違っており、『福岡県史』を読むと、単に「すき」と呼ぶ地域もあれば、「ギュウバスキ」「持立犂(もったてすき)」とよんでいる地区もあります。「ギュウバスキ」は読んで字のごとく、牛が犂を引くことから名付けられたと想像がつきますが、持立犂とは何なのでしょうか。
図1に示したように、持立犂は、犂全体が三日月型をしており、底の部分が曲線を描いているので不安定でした。そのため、人が抱え持って耕す角度を調節しながら、均等に耕せるように牛馬と犂の両方を同時に操作しなければならす、熟練した技術が必要でした。持立犂は、抱持立犂(=かかえもったてすき)を短縮して「もったてすき」と呼ぶようになったということからも、名前の由来に納得します。
明治時代、効率性の面から不安定な犂床が改良され、三日月型の先端部分の一方を取り除き、曲線部に厚底ブーツのような形を付けた犂が出回るようになりました(図2)。そこで、これまでの犂と区別するため、同じ持立犂でも底部の有る犂は「有床犂」、以前の犂は「無床犂」と呼ばれるようになりました。
現代は機械化され、性能の良い耕耘機(こううんき)がいとも簡単に土を耕してくれますが、犂を使っていたころの農作業は、今とは比べものにならない、大変な重労働だったことでしょう。そのような中で、人々が工夫をこらし、少しずつ道具に手を加えてより良いものを求めていたことが、「すき」の形からも窺えます。


参考文献
ものと人間の文化史『農具』飯沼二郎 法政大学出版局 1976年10月10日
『福岡県史』近代資料編福岡農法(財)西日本文化協会福岡県地域史研究所 昭和62年6月30日
『福岡県史』近代資料編農務誌・漁業誌(財)西日本文化協会福岡県地域史研究所 昭和57年3月31日



図1


図2