学芸だより

太宰府に息づく伝統行事「百万遍」

 かつて太宰府のマチやムラでは、さまざまな伝統行事が季節ごとに、あるいは一年を通じて定例的に行われていました。神仏にちなんだこれらの行事は、地域社会の中で人々が結び合いを深めるのに重要な役割を果たし、少しずつ形を変えながら現在に受け継がれています。
 百万遍(ひゃくまんべん)は、もともと念仏を百万回唱える行のことですが、のちに大きな数珠(じゅず)を多人数が輪になって繰りながら唱える「数珠繰り」として広まり、共同祈願などの際に多く用いられてきました。太宰府でも大正~昭和にかけて各地区でさかんに行われていたようです。6月20日(日)夕刻、三条のお宅で現在も続いている百万遍の様子を取材しました。毎月20日ごろに7軒のお宅が集まり、交代で当番を務め行事を支えていますが、最も多い時には20~30軒のお宅が参加していたといいます。馴染みの顔が揃うと、音頭取りを中心に大数珠を繰り、自分のところに親珠が回ってくると、頭にいただいたり、体にこすりつけたりして厄を払い、願をかけます。合間には、当番家心づくしのご接待の料理に舌鼓。この日はつくしの卵とじ、黒豆や筍の煮付け、香の物などが並び、夜が更けるまで楽しい会話に花が咲いていました。
 毎月、気心の知れた仲間と過ごす祈りの時は、身近に起こる悲しみを慰め、喜びを分かち、世代を越えてさまざまな情報を交換する場ともなり、皆が「何よりの楽しみ」と心待ちにされています。そして、この日の務めを終えた大数珠や掛軸などの道具類は、大切に箱にしまわれ、次の当番家の人が「お迎え」に来るのを待つのです。
 こうした行事が地域のコミュニティの中で息づいているのも、太宰府の貴重な文化の一端を示すものでしょう。



経文を唱えながら、皆で輪になって大数珠を繰ります。音頭取りは前月の当番の役目。手前にはお接待の料理が並びます。ちなみに、この日太宰府では日中の最高気温37.7℃を記録し、猛暑の中の集まりとなりました。