学芸だより

「太宰府のえびすまつり」

 12月3日早朝、夜がようやく白む薄明かりの中を人々が行き交います。今日は年に一度のえびすまつりの日。えびすさまの石像には、地域の人々の手で注連縄がかけられ、尾頭つきの鯛や紅白の餅、野菜、果物などが供えられています。

  太宰府市内では、太宰府天満宮周辺を中心に、30体ほどの石造えびす像を見ることができます。えびすさまといえば、七福神の一として手に釣り竿と鯛を持ち、岩に腰掛けたさまがおなじみですが、石に線彫りや浮彫りで刻まれた姿は具象的なものだけでなく、梵字だけのものなどさまざまです。商業地域にある恵比寿さまは商売繁昌を、また農村部では五穀豊穣を願って、古くは江戸時代の末、新しいものは戦後に建てられたようです。

  中でも、天満宮参道に直交する小鳥居小路では、祭りの当日近所の人々が付近に点在するえびすさまを5~7カ所にわたり訪ね歩き参拝することで知られます。参拝者には、御神酒と紅白のなますがふるまわれ、あたりがすっかり明るくなるころには人々が三々五々焚き火で体を温める姿が見られます。まつりの晩は直会です。かつて太宰府にはお日待ち、お夜待ち、お通夜などといった地区の行事がたくさんあったようですが、戦後の生活様式の変化に伴い、次第に行われなくなっていきました。そうした中で、えびすまつりは各地で現在にまで引き継がれ、地域の中で大切に守られるとともに、直会は時節柄地区の忘年会を兼ねることもあって、地域の人々の憩いとねぎらいの場としても貴重な機会となっています。