学芸だより

弘法大師と水 ・ 太宰府観世音寺 「弘法水」

  弘法大師空海に関する伝説は日本各地に数多く存在し、なかでも泉・井戸・池など、水に関するものが多数を占めています。共通するのは、水を所望した弘法大師を村人が貴重な水をくんで親切にもてなし、これに感謝した大師が持っていた杖で地面をついたところ、水がこんこんと湧き出て池となったというものです。
 
 観世音寺の北には「清水井」と呼ばれる湧き水の池があり、観世音寺の山号「清水山」は、これによるといわれています。『源氏物語・玉鬘の巻』にも「清水の御寺の観世音寺」と記され登場しています。この由緒ある清水の存在を後に伝えようと安永5年 (1776) に建てられたのが、観世音寺境内にある「清水記碑」です。

 また、この湧き水は『筑前国続風土記拾遺』にも、「池の周りに観音菩薩と弘法大師の石造があるので、俗に弘法水と呼ばれている。」と記され、今も土地の人によって大切に守られています。この「弘法水」の敷地内には、「筑紫四国霊場第三番札所 池渕弘法大師」のお堂が建てられ、昭和の初めころまでは、僧籍を持つ女性がお堂の世話をされ、巡礼者も多数いたようです。今もこのお堂には仏像が安置され、筑紫四国八十八カ所の本尊をお札としてお参りの人に配ったのではないか、と思われる版木が残されています。



観世音寺 弘法水(池渕弘法水)


「筑紫四国霊場第三番札所池渕弘法大師」
お堂に残る版木