学芸だより

太宰府のエビス祭(2)

 辞書で「えびすがお」を引くと、「えびす神の顔のように、にこにこしている顔。円満な福相の顔」と出てきます。いつも素敵な笑顔を浮かべたエビスさまは、商業地域では商売繁盛を、農村地域では五穀豊穣をもたらす神さまとして信仰されており、市内ではおよそ30体のエビス像が祀られています。エビス祭は全国各地で行われていますが、太宰府では12月3日を祭日とするところが多く(五条では1月10日)、この日、各所でお祭りをする姿が見られました。
 エビスさまのお祭りは、冷たい空気が冴え渡る早朝に行われます。個人でお祭りするところ、持ち回りの当番でお祭りするところなど様々ですが、皆朝早くからエビスさまの供物として餅、鯛、酒、ハクサイ・ニンジンなどの野菜や、リンゴ・ミカンなどの果物を用意します。前日から、笹に飾りをした縁起物の福笹を作るところや、参詣者への接待の準備を行うところもあります。
 小鳥居小路にあるエビス石像は、文化7年(1810)の建造から平成22年に200年を迎え、お世話をする人々により記念の幟が作られました。紫に染められた幟が、今年も周囲に色を添えていました。ここでは、接待として御神酒の他に、湯気が立ちのぼる熱々のぜんざいが振る舞われ、参詣者は冷えた体を温めていました。
 賑わいをみせるところがある一方で、祭祀をとりやめるところも年々増えてきています。 学芸だよりNo.11で「太宰府のえびすまつり」をとりあげた平成16年の調査では、14箇所で行われていたお祭りも、平成23年現在は10箇所に減っています。数年にわたって調査を続けていくなかで、担い手不足による伝統行事の継続の難しさや、お祭りをやめてしまうことへの心苦しさなど、様々な声を聞くことがあります。
 「心苦しい」という言葉があらわすように、祭祀を当たり前のように行っていた世代が祭祀をとりやめたのち、次の世代へと続いて行きにくい現状があります。そのようななかにあっても、供物を用意しやすいものへかえる相談をしたり、くじ引きを取り入れてお祭りとともに地域を盛りたてようとするなど、祭祀を続けていくための苦労や工夫を重ねる人々の姿に触れました。



▲溝尻の祭祀の様子


▲福笹


▲小鳥居小路のぜんざいの接待