学芸だより

~絵でみる太宰府~「西都政庁の図」


  太宰府史跡水辺公園の屋内プールに、タイル製の大きな壁画があるのをご存知でしょうか。中央に古代の大宰府政庁が描かれ、雲の向こうの博多湾には帆船が浮かび、鴻臚館が見えます。いにしえの大宰府の風景を、まるでドローンでとらえたようなこの絵は、福岡ゆかりの作家・和田三造(1883-1967)が昭和33年に発表した「西都政庁の図」。平成4年のプール開館時に原画の一部がレリーフになったものです。ここでは、絵にまつわる物語をご紹介しましょう。
  「西都政庁の図」は「博多繁昌の図」と一対の作品で、もとは福岡市博多区呉服町の博多帝国ホテルの大広間に飾られていました。昭和26年、ホテルが入るビルの建設中に、地下からおびただしい文化財が発見されます。
和田はかねてから親交のあった福岡の実業家で、後に博多大丸初代社長となる太田清蔵(五代)と手を携え「郷土福岡の歴史を物語る」壁画の制作に着手します。このとき海外との交流が盛んだった二つの時代が選ばれ、奈良・平安時代の大宰府と、慶長~寛永期の博多が、絵の主題となったのです。そして絵図制作のために詳細な資料を集め、時代考証に協力したのが、早くから鴻臚館の比定地を福岡城跡と考えていた九州大学医学部教授で考古学者の中山平次郎と、教え子の奥村武でした。
  計画は、福岡財界の長老で太宰府の文化発展にも力を尽くした河内卯兵衛の協力を得て進展します。完成した壁画二点は「博多古図」と称され、昭和33年4月14日、巡幸中の天皇皇后両陛下を迎えて除幕式が行われました。
学芸員 井上理香


和田三造「西都政庁の図」(福岡市美術館蔵)
和田三造「西都政庁の図」(福岡市美術館蔵)